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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)1040号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人塚本重頼、同菅沼隆志の上告理由第一点について。

所論は、原判決は被上告人の調停申立が本件賃貸借の解約申入であると判示しているが、右事実は当事者の主張しない事項を主張したものと認めたのであるから、原判決は違法であると主張する。しかし、原審口頭弁論期日において当事者双方が陳述した第一審判決の事実摘示によれば、被上告人は昭和二六年八月二七日上告人に対し内容証明郵便で本件家屋の明渡を催告し、その催告は翌々二九日上告人に到達し、その後六カ月以上を経過したが上告人はこれに応じなかつたため、被上告人は、昭和二七年一〇月中大森簡易裁判所に上告人を相手取り家屋明渡調停を申立てた旨主張し、上告人は、被上告人主張の書面を受領したこと並びに本件家屋明渡に関し被上告人上告人間に調停の行われたことは認める旨答弁した旨の記載がある。されば、上告人は昭和二七年一〇月中調停の行われたことを争わなかつたのであるから、原判決が右当事者間に争のない事実を前提として判断の基礎としたことは、もとより正当である。そして右調停の申立は、前記内容証明郵便による解約申入と関連してなされたものであり、その実質においてこれと選ぶところはないのであるから、被上告人は右調停申立による解約申入を黙示的に主張したものと解しえられるので、原判決には所論の違法はない。

同第二点について。

所論は、解約の申入は相手方に到達することを必要とするところ、原判決は調停申立書が上告人に送達されたことを判示しておらないので、解約申入の効果を発生することはありえないのであるから、原判決には理由不備の違法があると主張する。しかし、原判決は本件当事者間に原判示の頃家屋明渡の調停の行われたことは争ないところと判示しており、右調停の行われた以上、本件家屋の明渡を求める調停申立の趣旨を上告人において原判示日時頃までに了知したものと解することができるから、原判決は所論の違法はない。

同第三点について。

裁判所に家屋明渡の調停が申立てられ、その調停申立の趣旨を相手方が了知したと解しえられる以上、解約申入たる効力を有するものと認めるべきことは、すでに当裁判所の判示したところである(昭和二六年(オ)第四八五号同二七年一二月一一日第一小法廷判決、集六巻一一三九頁参照)。されば、論旨は、理由がない。

同第四点及び第五点について。

所論は、いずれも原判決に借家法の解釈適用を誤つた違法があると主張する。しかし、原審が本件解約申入に正当事由があつたと判断した全体を通観すれば、その判断は首肯することができ、原判決に所論の違法は認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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